単純な誤解が悲惨な航空機事故を引き起こすこともある。イリノイ州のクィンシー空港で起きた事故はコックピットでの些細なミスが原因だった。そしてガルーダ・インドネシア航空152便のように、小さな間違いと通常の手順ではないアプローチ、激しい煙が致命的な判断ミスを呼んでしまい、搭乗者全員の命を奪うこともある。またテネリフェ島では、誤った理解をしてしまったことが、史上最悪の死者数を出す事故を引き起こしたのである。
乗客は機長に命を預ける。しかし機長も人間である以上、墜落につながるような事をしないとも限らない。離陸直後に墜落したBEA548便では、調査官たちは機長に集中して起きた悲劇的な人的要因の組み合わせを解明していく。一方、ノースウエスト・エアリンク5719便の機長はあまりに闘争的で副操縦士の思考と行動を麻痺させた。さらに、トランス・コロラド航空2286便の場合、機長の隠れた欠陥が人々の命を奪った。
機長になるには何年もの訓練を要する。だがその真価を問われるのは危機に陥った時だ。ニューヨークのラ・ガーディア空港を離陸した旅客機が危機に陥った時、勇敢な機長はハドソン川に着水して難を逃れた。カナダ草原の上空を飛行中のボーイング767に危機的な故障が発生。機長は機体を巨大なグライダーのように扱うことが求められる。タカ航空110便が嵐のなかエンジンが停止、機長は民間航空の歴史に残る着陸をやりとげる。
時にパイロットと機体との信頼関係が壊れてしまうことがある。コックピットでは不意に人と機械が対立する場合もあるのだ。フランスが誇る航空機を見ようと航空ショーに集まった群衆が見たものは、予想外の恐ろしい災害だった。定期的な試験飛行に出た世界でも最も先進的な航空機は突如地中海に急降下してしまった。大西洋で乗客を乗せたエアバス機が消息を絶ち、調査チームは深海の捜索に2年もの時間を費やすことになった。
時には民間機が偶然狙われ、罪なき人々の命が失われてしまうという悲しい出来事がある。だがそうした事件によって、紛争時の民間航空保護について多くの教訓が得られてきたのも事実だ。シナイ半島の砂漠に散乱するロシアの旅客機の焼けた残骸。そして事故後まもなくソ連当局が撃墜を認めた、韓国のジャンボ機の墜落。ウクライナ上空で旅客機が撃墜され、調査チームはここかしこで地政学上の障害に直面することになるのである。
統計的に見た場合、一般人の自殺数と比べて自殺願望に捕われるパイロットはほぼ皆無である。だが、無実の乗客を巻き込んで人知れず自殺を企てるパイロットが現れたときは、その被害は桁外れになる。インドネシアのジャングル上空を巡航中のボーイング737が突然急降下。フランス・アルプスに突入したエアバスA320。そして、南シナ海で消息を絶ったマレーシア航空370便は史上最大の航空ミステリーのひとつになった。
恐ろしい3件の事故が世界の注意を引くことになる。死の謎を解くために、最大限の努力によって隠れた手掛かりを探る最高の調査官たちを描く。フロリダ州のエバーグレーズに民間機が墜落。調査官たちにとって、そこは最も危険な現場のひとつだった。ヒースロー空港にボーイング777が異常着陸。だが機体に故障は見つからない。そしてスコットランドの村を壊滅させた墜落事故が、世界でも最大級の犯罪現場となったのである。
航空事故調査の結果は、その後の空の安全性を左右する。犠牲者が著名な人の場合、調査に対する圧力も強くなり、時には調査官の見解が対立することもある。マンチェスター・ユナイテッドの一行を乗せた旅客機の墜落事故は国際的な論争を引き起こすことになった。アメリカ軍の兵士を乗せたチャーター機の墜落事故は調査当局の議論対立を招く。そしてロシア国内でのポーランド大統領特別機の墜落事故では陰謀説が渦巻くのであった。
1981年、FAA連邦航空局は飛行の重要局面では操縦以外の不要な言動を控えることをパイロットに求めるステライル・コックピット・ルールを確立した。このルールを無視すれば致命的な大事故を招き得る。ダラス・フォートワース空港の燃える機内で乗客は生き残りを賭けて戦う。新品のロッキードL1011はフロリダ州エバーグレーズの沼に墜落。最新型のロシア製スーパージェットはデモ飛行中にジャカルタの南の山に激突する。
航空機で最も遭遇したくない悪夢の1つは、悲惨な結果を引き起こす機内火災であろう。今回紹介する悲劇の事例は多大な人的損失を招いたが、その後の空の安全に大きく貢献することとなった。マンチェスターでは、観光客を地中海に運ぶフライトが滑走路上で地獄と化す。サウジアラビア上空では、巡礼者で満席の旅客機が猛火に包まれる。ドバイでは、墜落したUPSの貨物機の残骸から、大きな意味を持つ小さな電池が見つかる。