ナショナル ジオグラフィック

コラム

第6回
シロワニの厳しき世界

鋭利な歯は毎週生え変わります。常に新しい歯が奥から生えてきて次々せり出してきます。一生の間に3万本もの歯を使います。

『シロワニ:こわもてなサメの素顔』より

自然界は強い者だけが生き残る事の出来る弱肉強食の世界です。多くの生き物たちにはひと度産まれた時から、この熾烈な闘いが始まるのです。しかし、そんな生きる為の闘いを産まれる前から繰り広げている生きものがいます。それは、シロワニというサメの仲間です。

シロワニは全長が3mを超える比較的大型のサメで、世界中の暖かい海、そして日本近海にも生息しています。ちなみにサメなのにワニというのは、昔サメの事をワニと呼んでいた名残です。

夜行性なので昼間は休息します。岩陰に身を隠し、夜に向けて体力を温存します。

『シロワニ:こわもてなサメの素顔』より

なんとこのサメ、お母さんの子宮にいる卵の中から一番最初に孵った子供(胎児)が、他のまだ孵っていない卵を食べるのです。未受精卵だけでなく受精卵、そして驚くことに卵から孵った胎児も食べるのです。 これは「子宮内共食い」と呼ばれ、サメのみならず、生き物全体においても非常に珍しい行為です。最初に孵った子供は、他の卵や胎児を栄養にかえてどんどん成長し、1m程の大きさになると外の世界へ飛び出してきます。つまり、子宮の中で勝ち残った一匹だけ生まれてくる事が出来るのです。サメの子宮は2つあるので、産まれてくる子供は最大でも2匹までです。

鋭い歯と素早い反応で狙った獲物は逃しません。獲物の向きを整え丸飲みにします。

『シロワニ:こわもてなサメの素顔』より

凄くないですか?この子宮内共食い。我々ヒトからすれば考えられません。とても残酷に思えますが、シロワニは昔からこの様な繁殖方法を行ってきたのです。母親としてもさぞ辛いのではないかと思うのですが、その母シロワニもそこを勝ち抜いて、この世に生を受けてきたのです。

なので、僕はシロワニを見る度に、「あぁ、この子も厳しい闘いを勝ち抜いて、今ここにいるんだなぁ。」ととても感慨深い気持ちになります。強さと切なさが同居し、他のサメ、他の生き物とは背負っているものが違う様な気さえします。そんなシロワニを、これからも僕は応援していこうと思います。

サメの中でもシロワニの繁殖率は低く、一度の出産で産むのは2匹。また、ほかのサメと違い、2年に一度しか子を産みません。

『シロワニ:こわもてなサメの素顔』より