動物たちにとって大移動は、まさにサバイバル。インド洋のクリスマス島では、アカガニの大移動が目撃される。このディナー皿程度の大きさのカニたちは交尾と産卵のために内陸部の熱帯雨林から海岸へ一斉に移動する。そこにはアシナガキアリとの戦いも待ち受けている。ヌーの子供がワニの餌食に。母親は川岸で、ただ見ていることしかできない。心が痛む映像だ。しかし、480キロも旅するヌーの群れは、それを受け入れるしかない。毎年、ケニアとタンザニアを大移動し、あらゆる所に危険は潜んでいるのだ。北米に生息するオオカバマダラ。この蝶たちは4世代をかけて大移動を行う。そしてマッコウクジラは一生を100万キロ以上も移動して過ごすと言われている。
種の繁栄のため、障害を乗り越え、次世代を確かなものにしようと大移動する光景には畏怖を感じる。内戦で荒廃したスーダンではシロミミコーブの群れが健在し、命懸けの、しかし、どこかコミカルな繁殖の儀式が行われていた。ここ数十年で初めて確認された歴史に残る映像だ。さらにオーストラリアオオコウモリが半透明な翼に子供を包み、空へと舞い上がるすばらしい映像も紹介する。コスタリカの熱帯雨林に生息する働き者の軍隊アリ。メスとその子供にあたる20万頭の幼虫は1日に3万ものエサの死骸を必要とする。そしてフォークランド諸島のゾウアザラシ、ペンギン、マユグロアホウドリの驚くべき摂食行動と繁殖行動を紹介。彼らは繁殖のため海から陸へと移動を行わなくてはならない。
ボツワナ共和国では春を迎えると何百頭ものシマウマの群れが世界最大の内陸デルタを離れ250キロもの長く厳しい大移動を始める。塩と砂の砂漠地帯のため、彼らの体が必要としているミネラルは取ることができる。映像制作で表彰された経験を持つベバリー&デレック・ジュベール夫妻によって撮影され、全工程が明らかになった。アラスカ沖合では地球温暖化の犠牲者となっているタイヘイヨウセイウチの痛ましい姿が見られる。海氷と共に何百キロも移動して夏のエサ場へ来ていたのに、海氷の減少に伴ってセイウチの生息数に対して十分な広さの氷がなくなり、この限られた地を巡って争いが起きているのだ。未開拓のアメリカ西部には、プロングホーンがたくさんおり、自由に活発に移動していた。今は200頭あまりの小さな群れが彼らの祖先と同じように、春になると南ワイオミングから北へと移動する。雪線の後退に従って移動が行われるが、人間が住み始めたことで厳しい旅がさらに困難なものになってきている。長さ約12メートル、重さ約20トンのジンベイザメは世界最大級の魚。魚の卵を食べるために移動しているサメたちの姿をとらえた。そしてボルネオ島では、いい香りを放つイチジクの木がサルたちの無秩序なコーラスを生み出している。オランウータン、クリイロリーフモンキー、マカクザル、ボルネマン・ギボン。彼らはイチジクが熟して地面に落ちる前にジャングル中を移動して、ごちそうにありつく。
不屈の精神と上品さを持つ砂漠ゾウ。彼らはゾウの中で最も長い距離を移動する。その範囲は西アフリカの内陸国、マリ共和国の中心部から約480キロ圏内。サハラ砂漠の南端を移動し、絶対的に不足している、水とエサを求めて、乾ききった大地を移動し続けることが、彼らが生き残れる唯一の道である。ホホジロザメは、毎年、ハワイから北メキシコまで何千キロも泳いでいる。豊富なエサ場であるメキシコのグアダルペの沖合、約250キロにたどり着くためだ。そこにはマンボウ、イルカ、クジラ、オットセイ、ゾウアザラシなどの海洋生物たちが満ち溢れている。ホホジロザメがオットセイを襲う様子を間近でとらえ、海上と海中から、その詳細が分かる珍しい映像も紹介する。ミシシッピー・バレーは言わば鳥たちのハイウェイだ。ハゲワシ、ハヤブサ、カモ、ツグミ、ガン、ペリカンたちが、メキシコ湾とカナダあるいは北極圏の間にある、この鳥たちの交差点にエサを求めて集まってくる。さらに、光合成のため日の光を求めて浮遊するパラオのとても美しいタコクラゲの映像も紹介する。
とても印象的で不可解な大移動、そのナゾを科学的に解明する。蝶に最初に無線送信機を取り付ける難しさ、送信機の小型化によって何が明らかになったのか?「デイリー・ダイアリー」と呼ばれる特別な発信器を付けることで、暗く冷たい海中を泳ぐゾウアザラシの追跡が可能になった。この発信器には温度、速度、明るさをモニターするセンサーが付いていて、毎年、ゾウアザラシが海中へと姿を消す10ヶ月間、何をしているかを調べるために設計されている。またアフリカ象の研究と保護を一生の使命とする男性、彼は歴史的な洪水で、ほとんどすべてを失っていた。
ナショナル ジオグラフィックのクルーたちの舞台裏を見せる番組。草原で何年もかけて忍耐強く撮影する様子や、海中でケージの外にいるサメと一緒に泳ぐ姿。時速96キロの砂嵐に直面したり、スーダンでコーブを探す旅は、通行禁止や戦争で荒廃した地域を通るために過酷だ。ハヤブサのヒナの撮影のため120メートルの崖に吊られたり、ボルネオ島では、木の上で暮らす霊長類の撮影のため、約1ヶ月の間、1日14時間を45メートルの樹上で過ごすことに。さらにはセイウチの撮影のため、北極圏の海氷に取り残されることもある。
「生命のリズム」はナショナル ジオグラフィックの最高級の映像と、すばらしいオーケストラ演奏を提供する、ほかには存在しない作品である。映像は3年をかけて世界中から集め、その結果、大変ユニークな、ナレーションの入らない、音楽で旅を楽しむものに仕上がっている。この地球で無数の生き物たちが、群れになって一斉に、行列を作り、泳ぎ、飛んでいる姿は圧倒される光景であり、その大移動は命懸けの旅である。