本作の背景となるのは、ファシズムや軍国主義が台頭し、人種差別やテロ事件などの社会的混乱が広まった時代。もともと政治に無関心だったアインシュタインだが、そうした状況下で反戦や反ファシズムを強く主張するようになる。制作陣はそこにナショナリズムや移民差別などの蔓延する21世紀社会を重ね合わせ、今を生きる我々に歴史から学ぶよう警鐘を鳴らすのだ。
日本と日本人を愛したアインシュタイン実は日本との縁も深いアインシュタイン。1922年には日本の出版社の招きで妻エルサと共に来日し、合計43日間に渡って滞在している。当時の日本人からも熱狂的に大歓迎され、東京や仙台、名古屋、大阪など全国8都市で行われた講演会には合計1万4000人もの聴衆が詰めかけた。彼自身も日本や日本人を心から愛し、第二次世界大戦で広島と長崎が原爆被害に遭ったことについて深く胸を痛めていたという。
数多くの女性を愛した天才アインシュタイン大学時代の学友だったミレヴァ、従姉妹のエルザと生涯で2度の結婚をしているアインシュタイン。実はそれ以外にも数々の愛人の存在が確認されており、実はかなりの恋愛体質だった。本作では、そうした彼の自由奔放な恋愛遍歴や妻たちとの確執が赤裸々に描かれており、波乱万丈なラブストーリーとしても楽しめる。
アインシュタイン役のジェフリー・ラッシュと2番目の妻エルサ役のエミリー・ワトソンは、テレビ映画『ライフ・イズ・コメディ!ピーター・セラーズの愛し方』(’04)、映画『やさしい本泥棒』(’13)に続いて、これが3度目の共演となる。しかも、いずれの作品でも夫婦役。気心の知れた2人だからこその、白熱する演技合戦は見ものだ。
ジェフリー・ラッシュは実在の人物を演じる天才!中年期以降のアインシュタインに扮する名優ジェフリー・ラッシュは、実在の人物を巧みに演じることでも定評がある俳優だ。オスカーを獲得した出世作『シャイン』(’96)では統合失調症を患ったピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴッドを熱演。他にも往年の喜劇王ピーター・セラーズ、英国王ジョージ6世の吃音を治療した言語療法士ライオネル・ローグ、ロシアの革命家レオ・トロツキーなどを演じている。
若きアインシュタイン役の本職はロックスター大の音楽愛好家でヴァイオリン演奏を嗜んだことでも知られるアインシュタインだが、その青年期を演じている俳優ジョニー・フリンは本職がロック・ミュージシャン。しかも、音楽学校ではヴァイオリンとトランペットを学んでおり、その腕前は本作でも披露されている。本人によると、アインシュタインの反逆精神は現代のロックスターにも通じるとのことで、共感する点は多かったようだ。
歴史や科学の描写が正確で忠実なのはナショジオ制作ドラマとして当然だが、しかしそればかりでは視聴者を惹きつけることなど出来ない。製作総指揮者の一人ケネス・ビラー曰く、本作では「科学は魅力的で楽しい」をテーマに正確性とエンタメ性の両立を重視。そしてアインシュタインの人生を通し、既成概念や権威を鵜呑みにせず好奇心と疑問を持つことの大切さを訴える。
古都プラハでロケされた壮麗な映像美本作のロケ地に選ばれたのはチェコのプラハ。市内には中世以降の美しい街並みがそのまま残されており、舞台となる19世紀末から20世紀にかけてのヨーロッパを鮮やかに甦らせる。また、アインシュタイン自身も一時期プラハに住んでいたことがあり、当時彼が暮らしたアパートも現存する。そういう意味でも最適のロケ地だった。
映画からテレビドラマへ~作品成立の舞台裏もともと劇場用映画として企画された本作。しかし、膨大な内容を限られた映画の枠に収めるのは勿体ないという脚本家ノア・ピンクの意見でテレビシリーズへと変更され、ロン・ハワードとブライアン・グレイザーの製作会社イマジン・エンターテインメントへ持ち込まれた。そのロン・ハワードがナショナル ジオグラフィックに声をかけ、具体的に実現することとなったのだ。
忠実に再現された衣装の数々にも要注目映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』などに参加したスヌー・ミシュラが衣装デザインを担当。アインシュタインの服装は当時の写真が数多く残されているため、それらを基にして忠実なレプリカを制作している。それ以外の衣装についても、当時存在しなかった化学繊維などの生地は一切使用せず、必要に応じて同時代のヴィンテージ衣装も寸法を調節して使っている。
誰もが知る科学界の天才、アルベルト・アインシュタインの人生を追うドラマシリーズ第1話。
若き日のアルベルトは、自分の好きな数学と物理だけは、教師をしのぐ知識を持ち、疑問を遠慮なくぶつけるせいで、教師に疎まれている。両親と妹がミラノへと転居するにあたり、ギムナジウム卒業のためミュンヘンに残されたアルベルト。どうしても学校の居心地が悪い彼は、策を巡らして学校をやめ、スイスの工科大学受験を目指すのだった。
無事、スイスの大学に合格して学生生活を始めたアルベルト。唯一の女子学生ミレヴァ・マリッチと出会う。
優秀で洞察力に富み、学術的な議論もできるミレヴァにアルベルトはひかれ、彼女への愛情が深まるにつれマリーへの気持ちが冷めていく。
一方、アルベルトに音楽の趣味があることを知り、彼に魅力を感じていくミレヴァ。だが、脚の不自由なミレヴァは過去につらい経験をしていることから彼を避け、大学から姿を消すのだった。
大学を何とか卒業したアルベルト。
だが、最終試験に失敗したうえ妊娠したミレヴァは、故郷のセルビアでアルベルトの就職が決まるのを待つ。
だが、アルベルトは大学時代に教授に反抗していたせいで協力を得られない。
しかも“科学者”にこだわるせいで、まともな仕事は見つからないままだった。
何とか収入を得ようと始めた家庭教師で、2人の青年モーリス・ソロヴィーヌとコンラット・ハビヒトと出会い、知的な思索をするようになる。
結婚を機にスイスの特許局に就職したアルベルト。
忙しい仕事のかたわら、ミレヴァの協力を得て、寝る間を惜しんで次々と論文を書いていく。
一方のミレヴァはアルベルトの論文執筆を手助けすることに生きがいを感じていたが、図書館での調べ物に加えて、長男ハンスの育児と家事もしなければならない。
同居を始めたアルベルトの母親との関係もぎくしゃくしストレスを募らせていく。
そんな中でもアルベルトは執筆にいそしむのだった。
相対性理論がついに認められたアルベルトは、ついにチューリヒの大学で教鞭を執るようになった。
その後、まもなくプラハの大学から、さらに好条件の教授職の話が舞い込む。そんな折、エレベーターに乗った際に、新たな概念のヒントとなる体験をするのだった。
仕事面では驚くほど順調だったが、2人目の子供を授かったミレヴァはヒステリー気味。そんな妻の待つ家庭に、アルベルトは居心地の悪さを感じるようになるのだった
いとこのエルザと恋に落ちたアルベルトは、彼女の手引きでプロイセン科学アカデミーの会員となり、家族と共にベルリンに転居する。さらに相対性理論の一般化にも取り組み、それを証明するには日食の撮影が必要だと発見。天文学者のフロイントリッヒをロシアのクリミア半島へと派遣すべく資金集めに奔走するのだった。
私生活ではエルザの家に頻繁に出入りする一方で、当然ながらミレヴァとの関係は悪化の一途をたどっていく。
一般相対性理論を数式化し、完成を目指すアルベルト。
一人暮らしですさんだ生活にエルザに心配されつつも、研究に没頭するのだった。一方で戦争の影が科学者にも忍び寄り、プロイセン科学アカデミーでも戦争への協力を誓う書類への署名を呼びかけられる。しかし平和主義者を自認するアルベルトは、署名を拒否。盟友のハーバーが戦時は国に貢献すべきだと考え、積極的に軍に協力するなかで、アルベルトは自分を貫き通すのだった。
第一次大戦後、ユダヤ人排斥の空気が濃くなってきたドイツ。以前から危機感を持っていたエルザの気持ちがようやく実感できたアルベルトは、夫婦でアメリカへ移住する準備を始める。ところが米FBI長官から共産主義者の疑いをかけられ、出発直前になって大使館に呼び出されるのだった。総領事ガイストから聞き取りを受け、それに渋々答えるアルベルト。やり取りを通じて“世界一有名な科学者”となった後の日々を回想していく。
アメリカに移住したアルベルトとエルザ。
ドイツでナチスが強大化し、ユダヤ人排斥の気運が高まっていることを耳にしては、家族や友人を脱出させるべく動く。だが、友人のハーバーがパレスチナへ行く途中で急死。またエルザの娘も結核を患ってパリで亡くなるなど親しい人との別れが続く。一方、ドイツ国内では強力な破壊力を持つ原子爆弾の開発が進んでいた。それを知らされたアルベルトは、自分の取るべき行動に関して思い悩む。
“核兵器を開発した人物”として世間に考えられるようになったアルベルト。行き場のない腹立たしさを解消すべく反核を訴えるが世間には受けいれられない。さらに、どうしても納得できない量子力学と、一般相対性理論を両立させることができそうな統一場理論の完成を目指すがこれも行き詰まる。さらに長男ハンスとの関係も、ミレヴァの死をきっかけに決定的な亀裂が入る。体にも不調が出始めて、家に引きこもる日々が続くのだった。