恐ろしい捕食者。だがその子どもはどれも愛くるしい。凶暴な捕食者に育つとわかっていても。産毛に包まれたチーターやホッキョクグマの子には目元が緩む。愛くるしい幼子が殺戮者になるのは容易なことではない。自分で獲物が捕れるまで母親の殺しのテクニックを学ばねばならない。だが、ぬいぐるみのように見える子がいる一方、例えばナイルワニの子は捕食者そのままの姿で生まれ、数年のうちには最強の殺戮者に育つのである。
野生動物にとっては単なる移動も命がけだ。知恵と本能を駆使しても危機に陥れば命がけで逃げなければならない。ある動物は穴に身を隠す。高く登って逃げるもの、擬態して敵の目をくらますもの、速さに賭けるもの。鋭い感覚や、強力な手足など特別な能力を持つものも多い。あるいは特別な能力を持つもの、例えばキリンの隣にいることで逃げるものもいる。監視タワーの役目を果たすキリンが警報を鳴らせば、みな一斉に逃げるのだ。
野生動物は常に、どこでも、危機に直面する。生と死はあらかじめ運命づけられているのだろうか。幾度となく危機に見舞われるヌーの子ども。しかしそのたびに危機一髪を切り抜け、生き延びていく。危機を撥ね返す強運の持ち主なのだろうか。ところが最大の危機は群れが川を横断する時にやってきた。ここまで生き延びてきたのは、ここでワニに食われるためだったのか。あるいは、この危機をも撥ねのけてさらに生き延びるのだろうか。