芸術を知る~ 世界に溢れる多彩な美 ~ 芸術を知る~ 世界に溢れる多彩な美 ~

スペシャル対談企画 フラワーアーティスト 東 信 氏 × JAXA 杢野 正明 氏 「美とは何か?〜宇宙と自然をめぐる〜」

©yoshiokamakoto

ダーレン・アロノフスキーが製作総指揮をつとめ、ウィル・スミスが番組ホストをつとめるドキュメンタリー「宇宙の奇石」。人類が住む地球とその神秘を追及すべく、6大陸45カ国に及ぶ国々の過酷な環境や、宇宙にて撮影を行った本格ドキュメンタリーだ。宇宙と自然が生み出す壮大な美を余すところなく伝える映像はとても芸術性が高く、美しさに酔いしれながら地球や宇宙のことを知ることができる。

今回は番組にちなみ、成層圏に花を活けるなど、自然が生み出した植物を人間の力でアートにする活動で注目を集めるフラワーアーティストの東信氏と、JAXAの気候変動観測衛星「しきさい」のプロジェクトマネージャをつとめ、衛星から捉えた地球の壮大な美と日々向き合う杢野正明氏による美をめぐる対談をお届けする。

極限状態で強く生きる花

上空3万メートルに打ち上げた花束

©AMKK

杢野
東さんの作品を拝見しました。アート作品として、成層圏に花を活けるプロジェクトを実施されていますよね。
"SHIKI1 × Sandstone"
アメリカ・ユタ州の砂漠の化石”The Wave”で植物を活ける

©AMKK

アメリカ・ネバダ州のブラックロック砂漠で、上空3万メートルまで花の作品を飛ばして撮影しました。“不毛の地に花を活ける”をテーマに、砂漠や極寒の地で花がどう咲いて、朽ちていくのかをを撮影するプロジェクトなんです。バルーンは限界まで上がると気圧で弾けるので、最後はGPSを頼りに回収します。
杢野
植物が朽ちていくところまでを記録するというのは、生きているものの変化を見たいということですか?

©AMKK

いわゆる普通の状態の中で花がどう朽ちていくかというのは、ある程度自分の中で想像がつきますが、極限状態での花は予想がつかなかった。一体どうなるのか、僕が見てみたいというのがプロジェクトを始めた動機です。
杢野
極限状態だと、花はどうなるのでしょうか?
普段僕たちは、切り花を1日10歳とカウントしてアレンジしていくんです。つぼみから咲いたら、1日ずつ10代、20代、30代、40代、50代と加齢していくので、計算して組み合わせてアレンジしている。その常識が、極限状態では全く変わってしまうのが面白いですね。実は花って、ものすごく強いんですよ。
杢野
植物には癒しのイメージがありましたが、強いですか。
地上3万メートルで、突風に吹かれてもなかなか折れません。深海に花を活けたこともあるのですが、1000メートルの深海に花を沈めたのに、海流にも水圧にも負けず、花が一本も流されなかったということには驚きました。
杢野
それは驚きですね。
そういう実験的な試みを通して花の身体的な強さがわかってくると、普段花を活ける時に、もっと大胆になることができるんです。

技術的に熟知することが芸術になる

杢野
東さんは多岐に渡る活動をされていますが花屋とアーティストは使い分けている面があるのでしょうか?
同じですね。花屋というのは、花のことを技術的に熟知していなければならない。技術を追求するのは自分のためだけではなくて、しっかりとしたものを作って、お客さんと花との距離を縮めるお手伝いができるようになるということです。僕たちのやっていることは、サイエンスアートと呼ばれる科学的なアートと同じものだと思います。テクノロジーを駆使して作ったものが、結果的に芸術と呼ばれるものになるんですね。
杢野
そうかもしれませんね。我々も、計測の目的でつくった衛星の画像がきれいだと言っているわけで。

©yoshiokamakoto

本来の目的を超えたものができるのがすごく面白いなと思います。僕たちが作品を作るモチベーションは、そもそも花が極限の状況でどういう見え方、朽ち方をするんだろうという興味から始まるものです。その結果を自分なりに蓄積して、普段のアレンジや花づくりに反映をしていく。
杢野
花の枯れた姿も作品の一部にしていらっしゃいますよね。

©yoshiokamakoto

咲き誇っているときだけではなく、枯れた姿も含めての植物、表現ですから。昔から最新の技術を使って花を見せてきたように、花が咲いて朽ちるまでを映像として見せるなど、僕らも新しい技術をどんどん取り入れて表現しています。そうして作品として見せることによって、鑑賞者自身が自然だったり、花のことだったり、ひいては地球の環境のことを考えるようになるのではと思っているんです。
杢野
芸術には人間に考えさせる作用がありますからね。それにしても、花はやっぱりすごく癒やされますよね。私も自宅で、ちょっとした植物を育てています。成長するのが目に見えてわかったり、自分が世話をしないとすぐ駄目になるというところもチャレンジしがいがあるものです。
花というものは、人間が手を掛けなかったら持たないものですから。人間がご飯を食べるように、一日2回水を替えなければならないし、夜は必ず真っ暗にしてあげるんです。人間がちゃんと世話をすれば、そのとおりに応えてくれるものですよ。

宇宙に感じる美とは

杢野
東さんは宇宙への関心がもともと高いのでしょうか?
昔から星を見るのがすごく好きでした。今でも星の写真を撮りに行っています。特に南半球の星がすごくきれいで好きですね。この間はボリビアのすぐ下に行って、たくさんの流れ星を撮りました。
杢野
最近、都市化でだいぶ見られなくなってきたんですよね。
夢としては、いつかは地球を外から見てみたい。
杢野
僕らはデータで見ていますけど、東さんは直接という意味ですよね(笑)。
杢野さんがそもそもJAXAに入られたきっかけは?
杢野
高校生の頃に、テレビで日本のロケットの打ち上げを見たことがきっかけでした。日本でもこんなに大きなプロジェクトがあるのか!と驚いて。大学を卒業して就職する時に、筑波宇宙センターに直接電話をして「入りたいです」と直談判したのがきっかけで入りました。
宇宙の美しさに目を開かれた最初の経験は?
杢野氏が初めて見たランデブー・ドッキングの様子

©JAXA

杢野
JAXAに入って最初に携わった、ランデブー・ドッキングの中継映像には感動しました。自分の仕事で初めて見た、宇宙からの映像です。宇宙空間を秒速7キロで飛行する2機の宇宙機を自動的に接近させ、相対速度を秒速1センチメートルまで落として、最終的にカニの爪のような機構で捕獲してドッキングするというプロジェクトでした。白黒の荒い画面でしたが、本当に美しかった。
昔のゲームのような画面ですよね。しかし気が遠くなりそうな作業です。

©JAXA

©yoshiokamakoto

杢野
2つの衛星を組み合わせて打ち上げて、宇宙で分離して、またドッキングするというプロジェクトでした。2回目の実験では1回離れてくっつくまでに、3週間くらいかかったんですよ。当時は解像度の低い画像でしたが、今打ち上げている「しきさい」はかなり高画質で撮影しています。
杢野さんは「しきさい」から地球を見られていますが、どのような調査をされているんですか?

©yoshiokamakoto

気候変動観測衛星「しきさい」が観測した植生分布
※積雪域は白く抜けています

©JAXA

杢野
「しきさい」には、例えば地表面を多方向から計測できるセンサーを積んでいます。地球表面を斜めから見ることで、緑の分布だけでなく量的なこともわかるのではないかと考えています。量的なことが分かれば二酸化炭素の吸収量の推定に役立てることができます。
世界的にも初めての試みですか?

©JAXA

杢野
世界で研究中の試みの一つです。こういった地球環境の状態を把握することは、この衛星一機だけで完結することではないので、世界の人たちが協力して進めていくプロジェクトだと思います。

人間の本能をくすぐる美

気候変動観測衛星「しきさい」が観測したカムチャッカ半島の朝焼け

©JAXA

観測のためのデータですが、本当に美しいですね。
杢野
例えばこの画像では、ロシアのカムチャッカ半島を撮影しています。元旦に撮影した画像で、東から太陽が当たっていて、地表がピンク色に染まっているのが見える。宇宙から見た初日の出ですね。
人間が恣意的に生み出す芸術では絶対につくり出せないイメージですよね。自然そのものが一つの芸術になっている。沙漠を撮影した画像はまるで葉脈のように見えますね。
気候変動観測衛星「しきさい」が観測したサハラ沙漠のティベスティ山地

©JAXA

杢野
地表が葉脈のように見えるというのは、地球と植物が本質的には一緒なんでしょうね。仕組みは違うかもしれませんが、造形という意味では、何かしらの共通項があるのではないかと思います。
花も自然がつくり出した物質ですから、そこに感じる美しさはすごく似ていると思います。そもそも植物や動物のもつ曲線美は、よく車とか建築にも使われていますから。

©JAXA

杢野
人間が好むパターンがあるのでしょう。花を見て美しいと思ったり、地球の表情を見て美しいと思うのは、人間も自然からつくり出されたものなので、調和しているのかもしれない。本能的にきれいなものに関してはシンパシーを感じるんだろうなと。
花って、人に贈るとすごく喜ばれるのが不思議ですよね。そもそも人間が弔いの花を生け出したのは、はるか古代、言語が発達する前からなんですよ。当時の化石も残っています。僕も、子どもの時から宇宙を見るのが好きで、星を見るのが好きで。でもなぜ好きなのか理由がわからない。最近になって、それは理屈じゃなくて同じものなんだな、と思っています。
杢野
存在そのものが、そういう自然のものがきれいだと感じるのでしょうね。

花の命に向き合うアートをつくる

「しきさい」で観測しているように、気候変動に関する取り組みはこれから世界ぐるみでやっていかなければならない、大事な研究ですね。100年後の世界を考えてそれぞれが動いていかないと。
杢野
そうですね。結局すぐに効果が現れないものですから、今やるべきことをちゃんとやっておかないと。時間が経ってから気候変動の影響が現れるので、将来を予測して早く対処できるようにしないといけない。そのために日々、観測しています。
これからは、未来のことを考えながら生きる世の中になってくるでしょう。モノが飽和状態になっている中で、いろいろなものに飽きてしまっている。もう少し感覚を研ぎ澄ませて、現状をもう一回自分たちの中で見なくちゃいけない。そのための教育や発信をしていかなきゃいけないんだと思います。
杢野
生活していると、普段の生活が地球環境にどんな影響を与えるかわからないですからね。

©yoshiokamakoto

環境といえば、昔から花屋はゴミが多いと言われているんです。僕はそれがすごく嫌だった。だからオーダーメイドの花屋にして、必要な分だけを買って、ロスを出さないようにしています。
杢野
素晴らしい取り組みですね。宇宙というのは、奇跡のような偶然によってうまく成り立っています。その上で、植物や生物などが自然に調和して地球の営みをしているところですから、個人個人がそのことについて考えなければならない。
花屋は自然を扱っていますが、同時に自然に負荷をかけている部分もあるので、そこは考えていかなきゃいけないなと思っているんです。アート作品を作っているのも、一つの花をたくさんの人に見てもらえるから。花が美しいということを発信していきながらも、命を無駄遣いするのではなくて、しっかり命と向き合って作っていくのが大事だと思っています。

【対談を終えて】

奇跡のような偶然によって成り立つ宇宙と地球。人間が生み出す芸術も、地球が生み出す資源によって作られている。地球を取り巻く現状を個人個人が考えなければならない−—。 お二人が語ってくれたように、地球の美しさとその奇跡について考えるきっかけにもなるであろう「宇宙の奇石」を、色彩豊かな映像に惹き込まれながら多くの方にご覧頂きたい。


プロフィール

モーリー・ロバートソン

東 信 (あずま まこと)
フラワーアーティスト

2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年より、こうした花屋としての活動に加え、植物による表現の可能性を探求し、彫刻作品ともいえる造形表現を始める。ニューヨークでの個展を皮切りに、ヨーロッパやアメリカを中心に先鋭的な作品を数多く発表するほか、2009年より「東信、花樹研究所(AMKK)」を立ち上げ、世界各地の美術館やアートギャラリー、パブリックスペースなどで作品発表を重ねる。

近年では人と花の接点を模索するプロジェクトも精力的に展開。独自の視点から植物の美を追求し続けている。
www.azumamakoto.com

モーリー・ロバートソン

杢野 正明 (もくの まさあき)
JAXA第一宇宙技術部門 GCOMプロジェクトチーム 
プロジェクトマネージャ

1990年に宇宙開発事業団(現:宇宙航空研究開発機構(JAXA))に入社。技術試験衛星VII型「きく7号」(ETS-VII)、光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS)等の開発に関わった後、GCOMプロジェクトへ。2013年4月より現職。

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GCOMプロジェクトとは・・・
数十年後、数百年後の地球の状態を正しく予測し、対策を立てるためには、大気、海洋、陸域、雪氷といった地球環境の長期の観測が不可欠。GCOM(Global Change Observation Mission)は、先行する水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W)と、気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)の人工衛星を使って地球の状態をグローバルに観測するミッション。
www.jaxa.jp


作品紹介
私たちが住む地球とは、いったいどんな惑星なのか?溶岩が噴出し続ける場所があれば、氷点下で暮らす人もいる。標高8,000メートルの山があれば、水深8,000メートルの海もある。とても美しく、そして少し奇妙なこの地球は、数え切れないほどの奇跡でできているのだ。映像表現に定評のあるダーレン・アロノフスキーと番組ホストのウィル・スミスが贈る、地球の神秘に迫るドキュメンタリー「宇宙の奇石」。

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